頸部は生殖器生殖管の上部と下部の境界と考えられている。上部生殖管感染症は主に頸部,子宮,卵管を侵す;重度の感染症は片方または両方の卵巣を侵す。
上部生殖管感染症症状と徴候
患者は下腹部痛,発熱,腟分泌物,および/または異常な子宮出血などを示す。症状はしばしば月経中または月経後に生じる。腹膜刺激は著しい腹部痛を起こすが,反跳圧痛が伴うことも伴わないこともある(膿瘍の破裂を避けるため,腹部触診は慎重にする必要がある――後述参照)。
子宮頸管炎:頸部は赤くなり出血しやすい(スパチュラや綿棒で触れる場合)。粘液膿性分泌物は黄緑で,多核白血球を油浸フィールド平均で10以上含んでいる(グラム染色使用)。
急性卵管炎:始まりは通常月経直後に起こる。下腹部痛は,防御や反跳圧痛,頸部の動きによる圧痛を伴って,ますます激しくなる。通常は両側性である。重度の感染症では悪心と嘔吐が起こる。初期の段階では急性の腹部の徴候はしばしば現れない。イレウスを伴う腹膜炎が発症しない限り,腸音はある。発熱,白血球増加症,粘液膿性頸管分泌物は一般的である;不規則出血,細菌性腟炎もまた骨盤部感染にしばしば伴う。
淋菌による骨盤部感染は,C.トラコマチスによる場合よりも,急性で典型的症状である;始まりは急激で骨盤部疼痛は月経が開始した直後に発する。痛みはしばしば片側に限定されるが,おそらく両管ともに感染している。感染はびまん性滲出液を産生し,その結果として凝集,癒着,管の閉塞を引き起こす。腹膜炎が生じ,上腹部痛と癒着の原因となる。
C.トラコマチスの症状はしばしば軽度にみえるが,長期的にみて淋菌よりも深刻なダメージを及ぼす。クラミジア類は,卵管粘膜に数カ月もとどまってから,急性疾患として臨床的症状が現れる。
慢性卵管炎:治療を放置したり不適切な治療の結果,急性の感染から,卵管の損傷やおそらく癒着形成を伴う慢性の卵管炎に進む。慢性骨盤部疼痛,不規則月経,不妊症が長期的後遺症である。
骨盤部炎症疾患
子宮内膜炎(子宮腔の感染),卵管炎(卵管の感染),粘液膿性子宮頸管炎(頸部の感染)卵巣炎(卵巣の感染)を含む上部女性生殖管の感染。
骨盤部炎症疾患(PID)は,婦人科疾患,例えば不妊症,異所性妊娠,慢性骨盤部疼痛などの主要な原因の一つである。診断と治療はこれらの後遺症を避けるため早急に行わなければならない。
PIDは35歳未満の女性によくみられる。初経前,閉経後,妊娠中に起こることはまれである。急性PIDの危険因子には,複数の性生活のパートナー,PIDの既往,IUDの使用,細菌性腟炎またはSTDの存在,未産婦,最近に行った医療器具を用いた子宮処置(例,中絶)などがある。経口避妊薬は急性のPID発症の危険を減少する。
PIDは性交,医療器具による処置,流産,分娩などの間に感染した微生物が原因である。感染は通常複数の要因があり,好気性や嫌気性の微生物が関わっている。
淋菌はPIDの最も一般的な原因である。淋菌はまた敗血症,遊走性多発関節炎,心内膜炎,肛門感染,尿道炎などの原因ともなる;最後の尿道炎は女性においては無症状のことがある(164章の「淋菌」参照)。男性から女性への感染が,女性から男性への感染より一般的である。より若い年齢層,非白人,社会経済的レベルの低さ,多数のまたは新しい性生活のパートナーなどが危険因子である。
C.トラコマチスは15の血清型があり,それらが原因でバルトリン腺感染から結膜炎や中咽頭感染まで感染症のスペクトルを展開する。C.トラコマチスは妊娠していない女性の5%が感染している。クラミジア感染症の女性の半分は無症状で,頸部も正常にみえる。危険因子は淋菌と同じである。C.トラコマチスによる最も一般的な臨床的感染症は子宮頸管炎である。淋菌とC.トラコマチスは同じ身体所見がでる。
上部生殖管感染症の診断
主な臨床基準は,下腹部の圧痛,片側または両側の付属器の圧痛,頸部の動きによる圧痛である。その他の基準として,口腔温が38.3℃以上,頸部または腟からの異常な分泌物,ESRの上昇,C-反応性蛋白の上昇,淋菌またはC.トラコマチスによる頸部感染を示す検査結果がある;ESRとC-反応性蛋白は多くの疾患において上昇するため,PID特有ではない。3つの主な基準のすべてと,その他の基準のうち1つを満たしていた場合,PIDと診断する。白血球増加症がみられるのは典型的である。骨盤部超音波検査は,患者が圧痛や痛みで検査ができない場合,骨盤部腫瘤が存在する場合,48〜72時間以内に抗生物質療法に反応が見られない場合などに用いる。腹腔鏡検査は,診断が確定できない場合,患者が内科療法によって迅速に改善しない場合に実施する。
頸部の培養またはDNAの抗体検出テストにより,淋菌またはC.トラコマチス,異なったWBCのCBC(全血球計算)を詳細に調べ,また妊娠テストはすべての患者に実施するべきである。淋菌による頸部感染は,細胞内グラム-ネガティブ双球菌を示すグラム染色によって診断される。子宮内膜生検の検体の好・嫌気性培養は,診断の助けとなる。鑑別診断には,異所性妊娠,急性虫垂炎,子宮内膜症,症候性卵巣破裂,卵巣新生物,子宮筋腫などがある。
上部生殖管感染症の合併症
卵管-卵巣膿瘍は卵管炎の女性のおよそ15%に発症する。急性または慢性の感染症に伴い,長期の入院,ときには外科的経皮排膿が必要となる。膿瘍の破裂は緊急外科処置を要し,激しい下腹部の痛みから,悪心,嘔吐,全体的腹膜炎,敗血症性ショックへと急激に進行する(156章参照)。片側または両側のファローピウス管が膿で満たされる卵管留膿症が起こっていることがある。膿液は無菌のこともあるが,WBCが優性である。卵管留水症(線毛性閉塞と膿性でない液による卵管の拡張)は治療が遅れたり不完全だったりすると生じる。結果として起こる粘膜の破壊が不妊症の原因となる。卵管留水症は一般に無症状だが,骨盤部の圧迫感,慢性骨盤部疼痛,性交疼痛症の原因となることがある。
フィッツ-ヒュ-カーチス症候群は淋菌またはクラミジア菌の卵管炎の合併症である。その特徴は急性卵管炎と関連した腹部四分円の右上部分の痛みで,肝周囲炎を示唆する。急性胆嚢炎も疑われるが,PIDの症状と徴候は存在し,また急激に進行する。
上部生殖管感染症の治療
治療目標は感染症の完全な消滅,不妊症と異所性妊娠の予防に置く。そのために,培養結果が得られた時点から積極的な抗生物質療法を開始しなければならない(表238-3参照)。一般的に入院治療を必要とされる患者には,未産婦または出産経験の少ない妊婦,重度の疾患(例,高熱,白血球増加症,痛み),妊娠の疑い,骨盤部検査中に腫瘤が見つかった場合などが含まれる;これらの症例では,患者が24時間無熱状態を続けるまで,静注療法を継続するべきである。卵管-卵巣膿瘍の経皮または経腟の排膿は,超音波によるガイドを使用して実施されるべきである。
合併症のない淋菌による感染症の治療には,セフトリアキソン125mg筋注,セフィキーム400mg経口,またはシプロフロキサシン500mg経口などの選択肢がある。C.トラコマチスはしばしば淋菌に伴うので,ドキシサイクリン100mg経口で1日2回7日間もまた使用される。アジソロマイシン1g経口で1回またはオフロキサシン300mg1日2回を7日間も同等に有効である。C.トラコマチスの検査は治療終了時に繰り返す必要はない。感染症のある患者のパートナーもまた治療が必要である。














