一般に、草根木皮〔ソウコンモクヒ〕を水で煎じて服用したり、または粉末にして服用したり、外用薬として治療するのが「漢方薬」と思っている人が実に多い。医師・薬剤師のなかにさえも、同じ考えの人がいるので、素人が誤解しているのは、まったくむりのないことである。クコ、ハブ茶、ゲンノショウコ、センブリ、どくだみ、トウモロコシの毛などは民間薬で、たいてい一種または二種を煎じて服用している。アロエ、センナ、ウワウルシなども同様で、西洋の民間薬といえるものである。
民間薬による療法は民衆の知恵であり、伝統的なものであるが、使い方が××病には○○草の根、などといったやり方で、西洋医学の病名治療と似ている。
民間薬は病気にうまくあたれば(適合すれば)非常な効果を発揮するが、まったく無効の場合も多いようである。これは病人の個人差を無視して服用しているからである。近頃は数種の民間薬をまぜあわせて、それらの複合作用をねらう「健康茶」的な用い方も広まっている。
さて、漢方薬は同じような草根木皮を原料として治療に用いるのであるが、漢方の処方(正式には薬方)のなかに配剤される生薬の種類・分量は昔からきめられていて、勝手にかえられないことになっている。そして煎じ方や使い方(服用方法)にも約束がある。たとえば、葛根湯〔カッコントウ〕は、葛根4.0、麻黄・生姜〔ショウキョウ〕・大棗〔タイソウ〕各3.0、桂枝・芍薬・甘草各2.0(各グラム)という七味の生薬で一日分の処方が構成されている。この分量や分量比を勝手にかえることはできない。もし分量をかえると葛根湯としての方格(人の人格のようなもの)が失われ、薬の効果がよわってしまうか、無効となるであろう。
葛根湯は単にかぜの薬ではなく、非常に広範囲の疾患に応用されるし、実際に効果をあげている点が民間薬と違う特長の一つであろう。
漢方薬は治療にあたって、患者から自覚症状を中心に多くの情報を集め、きめこまやかな配慮のもとにえらばれ、そして治療に用いられる。民間薬は一つ二つの目的で、すぐに応用されるものが多い。
同一の薬(草根木皮)でも、使い方で民間薬にも、漢方薬にもなるものがある。たとえば朝鮮人参は多くの漢方処方の重要な構成生薬であるが、普通単味で使うのは「独参湯〔ドクサントウ〕」といって、多量の人参だけを煎じ、続発性微弱陣痛や、出産途中で産婦の元気がおとろえた場合に用い、また外傷などで血液が損耗している場合などに用いるのが昔からの漢方の用法であるが、民間薬的には、粉末にしたり、けずって服用したり、酒類に潰けたりして、体力増強を目的に用いられている。
また、ヨク苡仁〔ヨクイニン〕(はとむぎ)は、皮膚のあれ(たとえばサメ肌)やイボ(疣贅〔ユウゼイ〕)をとる目的で使うと民間療法的であるし、ヨク以仁に敗醤根〔ハイショウコン〕と附子〔ブシ〕を加えて用いると「ヨク苡仁附子敗醤散」という立派な漢方処方となる。
漢方薬と民間薬との差は、処方として、また処方中の生薬としての「証」を重要視して用いれば(証にしたがって用いれば)漢方薬であり、証を無視して一症状、一病名を目標に用いれば民間薬になる、という点にある。すなわち、漢方薬には非常にきびしい使い方の法則があり、民間薬には法則がないといえる。漢方薬の使い方の法則はきわめて複雑かつ難解であるため、大衆のなかに広く浸透できないのであるが、一方、民間薬は非常に簡単に活用できる利点がある、といえよう。
■民間薬と漢方薬の相違点
●民間薬
多くの場合一種類(一味)で使用する、習慣的常識的に病名や症状に対して使用。
比較的安価に入手できるものが多い。
原植物や民間的な俗称でよばれている。(例)どくだみ、ゲンノショウコ
素人の人でも、手軽に使うことができるし、副作用も比較的少ないものが多い。
ほとんどの処方が数種類をあわせて使用。
●漢方薬
習慣的、常用的に病名や症状に対して使用また漢方的診断である「証」をとらえてその証に基づき使用される。
多くの原料生薬が輸入品であり、保管方法が難しいなどで、比較的高価である。
古来からの独特の「薬方名」でよばれる。(例)葛根湯、小柴胡湯
「証」のつかみ方のできる技術を習得している専門家(漢方の医師、漢方の薬剤師)による指導が必要である。もし証が合っていないとまったく無効か、場合によっては副作用もある。














