精液ウォッシャーは、精子バンクに欠かせないスペシャリストである。もっとも、求人広告には精液ウォッシャー募集とは載らない。「低温生物学者募集!」や「検査技師募集!」としか書かれていないのが普通である。だが米国の精子バンクの現場では、精液ウォッシャーという通称が定着している。
米国最大の精子銀行California Cryobankのロサンゼルス・ラボで“精液ウォッシャー長”を務めているダイアナ・シリンガーさんは、こう語っている。「採用面接のときは、“精液を扱う仕事だとわかって応募してきたのですよね?”と必ず相手に確かめるようにしています」では、精液ウォッシャーたちは、具体的にどんな仕事をするのだろうか? ワークフローを簡単にまとめると、次のようになる。
まず、“採取ルーム”と呼ばれる個室に精子提供者(ドナー)が入る。この個室には、刺激的な内容の雑誌やDVDが用意されている。それらの助けを借りて発射し終えると、採取ルームからドナーが出てくる。ドナーは精液が入ったカップを手渡し、謝礼の75ドルを受け取って、そそくさと帰って行く。ここで、精液ウォッシャーの作業が開始する。まず、カップを受け取り、少量の液をサンプリングして、顕微鏡で精子の数をカウントする。次に、その名前の由来となっているウォッシング(洗浄)作業を行う。精液を遠心分離機にかけ、運動性細胞(精子)から前立腺液や精嚢分泌液を分離するのである。最後に、防腐剤の一種を添加し、冷凍保存器に格納する。こうして冷凍処理された精液は、20年間もの長期保存が可能である。もちろん、ドナーのプロファイルを誰かが気に入ったなら、そんなに長く保存されることはない。
米国では、1995年以降、精子バンクのおかげで25万人もの赤ちゃんがこの世に生を受けている。その一端を担っているのが精液ウォッシャーたちなのである。前出のシリンガーさんは、自分たちの職業を友人や知人に説明するときに苦労すると話している。だが、笑える話もあるという。「ある日、いつまで経っても採取ルームから出てこないドナーがいました。私たちは、誰が彼をチェックしに行けばいいだろうかと相談を始めたほどです。どうやら、彼は精液採取カップを満杯にしなければ外に出れないと思い込んでいたらしいのです」精液がたくさんある方が自分の子孫をより多く残せるはずだという生殖本能が彼をそうさせたのだろうか














