毎日喫煙している人と喫煙しない人の肺がんの死亡率をみると、大きな差がある。禁煙すると経過年数にしたがって、肺がんの死亡率は吸わない人の場合に近づく。これほど大きな差があるのに何故吸う人がいるのか。それは知識がないか、ニコチン依存症かによる。
しかし知識人の中にも人口10万人対107人は宝くじのようなもので、自分は大丈夫と思っている人が多い。人口10万対何人というのはリスクとしては低いようであるが、これは1年間の罹患率である。生涯罹患率でみると、これの約百倍になる。1日50本以上の喫煙者では、75歳までに肺がんになる人は10万人につき3万3千510人、ちょうど三分の一が肺がんになる。なぜ残りの人が肺がんにならないかというと、肺がんになる前に心臓病などで死ぬからだ。
■26万5千人を対象にした「計画調査」
これは大集団の健康者のライフスタイルを調べた上で長年月追跡観察した私たちの研究から得られたものだ。この研究は、40歳以上の成人26万5千118人(6府県)を対象に、1965年10月から12月にかけて保健婦が家庭訪問し、食習慣、飲酒・喫煙などを調べた。調査率は国勢調査人口に対し95%で、これらの人を17年間観察した。この中から5万5千523人が死亡し、1万4千740人ががんで死亡した。これらの人たちがどんなライフスタイルであったか、健康なときにどんなライフスタイルであったかを調べた。
肺がんと喫煙の関係は、世界各国の大集団を追ったコホート研究で一日の喫煙本数が多いほど高くなることがはっきりと数字で出ている。イギリスが一番切り立っているが、ノルウェー、スェーデン、アメリカ、日本など殆ど平行している。
いくらか違いが出ているのは、その喫煙継続期間の長短による。日本とでは50年くらい違う。タバコはイギリスでは今世紀初めから非常に広がったが、日本では1950年代以降である。それを考慮すると殆ど一致する。
肺がんについてはもう異論はない。しかし、疫学的には認めるとしても病理学的には証明されていないという人が沢山いる。それは確実に証明されていることだ。
■タバコはがん、心臓病、老化のリスクファクターである
そのことは厚生省の「たばこ白書」(1987年)−歴史的な出版書である、ぜひ読んで欲しい−に明記されている。タバコの煙に含まれている有害物質は粒子相に33種、気相中に16種という表が出ている。発がん陽性の動物実験が国内で16、国外で24、これも表が出ている。
考えてみると、一群が吸い、他群が吸わない27万匹(先の27万人の調査)の動物を17年間観察した私たちの日本での実験成績で喫煙の有害性は確認されている。その動物がマウスやラットなら病理学的証拠として重視するのに、その動物がたまたま人間の場合は疫学的と呼び、軽視または無視するのは全くおかしい。
「たばこ白書」には、兎、、犬などを用いた動物実験成績が列挙されている。 私たちの研究では、タバコが肺がんだけでなく、喉頭がん(特に顕著)、口腔がん、食道がん、肝臓がん、膀胱がん、膵臓がん、胃がんなどの原因になることがわかっている。これは男性の場合であるが、女性も同様で、特に子宮がんとの関係がはっきりと認められている。
喫煙はがん作り行動である。タバコを吸っている人は自分の体の中にがんを作る努力をしているのだ。早く芽を出せ柿の種、と一生懸命がん作りにいそしんでいる。それをライフワークにしているのが喫煙者である。
最近の観察によると、発がん物質の大部分は活性酸素を発生する。タバコを吸うと活性酸素が大量に発生し、それがDNAに作用すると考えられている。がんのもとは活性酸素だという見方が強くなってきている。
どのように作用するかというと、がん遺伝子、特にがん抑制遺伝子、その中のP53に変異を惹き起こす。猟犬が獲物をどこまでも追うように、タバコの煙の物質ががん抑制遺伝子に襲いかかり、歯止めを外すということがわかってきた。
肺がんとライフスタイルとの関係をみると、タバコがトップで横綱、酒は大関で2番目である。タバコは他のライフスタイルと比べて抜きん出ているのが特徴である。
世界各国のコホート研究はタバコだけを調べているが、他のものと比べているのは私たちだけである。その内、喉頭がんはもっとはっきりしている。
膀胱がん、膵臓がん、肝臓がん、胃がん、子宮頚がんなど全部のがん、どれをとってもタバコが横綱である。ことは肺がんだけでなく、どの部位のがんでもタバコのリスクは高い、頭抜けて高い。
ところが、がん以外の病気でもタバコが大きなリスクファクターである。石原裕二郎のかかった動脈瘤もタバコが断然トップである。他のファクターの影響は少ない。クモ膜下出血、虚血性心臓病、高血圧性心臓病など循環器疾患は言うに及ばず、気管支喘息、肺気腫など呼吸器疾患、消化性潰瘍など消化器疾患など、どの病気の場合も高いリスクを喫煙者は示している。まさにタバコは筆頭リスクファクターである。
女性の場合は、本人ががんや他の病気になるだけでなく、胎児に対する影響がある。おなかの中では胎児は逃げられない。私は密室殺人と言っているが、まさに密室である。多くの胎児は殺され、生き残っても発育障害があったり、低体重の子どもが生まれる。
さらに精子、卵子に対する影響、生殖細胞に対する影響もタバコは強いので次代の子どもたちへの影響が大である。 年齢累積死亡率を疾患別にみると、虚血性心臓病はどの年齢でみてもタバコを吸わない人に比べ毎日吸う人は2倍くらいリスクが高い。女性の場合も同じである。これを5歳平行移動するとぴったり重なる。つまり、タバコを吸っていると、5歳上のタバコを吸わない人と同じリスクになる。したがって同年齢で比較すると軒並みリスクが高いのは当たり前のことになる。
膵臓がん、胃がんでも同じである。タバコを吸うと早く歳をとるのだということがわかってきた。全部位のがんでみても、同年齢の非喫煙者の年齢別死亡率から計算した期待数と比べるとずっと高いが、5歳上の人と比べると殆ど同じ期待数となる。 女性の場合も同じである。
結論的に言うと、がん、心臓病、老化のリスクを大幅に高めるのがタバコである。これらには色々な因子が関与するが、共通の因子は活性酸素である。リスクを大幅に低めるのが緑黄野菜、その中のスカベンジャーとしてβカロチンとかビタミンCなどが活性酸素の力を弱めるように働く。がん、心臓病、老化とも、どれもタバコでリスクが高くなる。緑黄野菜で低くなる。話はすっきりしてきた。
■タバコを吸うとぼけ易い
タバコを吸うとぼけ易い。私たちの研究はぼけない内に調べておいて、ぼけを待つ、ぼけ待ち研究でこれは世界で唯一の研究である。タバコを吸えば吸う程ぼけることがはっきりと出ている。ぼけた人に今までどれだけ吸っていたか聞く、そんな研究は当てにならない。世界にはそういう文献が多い。私たちのぼけの研究結果がもうすぐ世界中に出まわる雑誌に載る。
喫煙している人でも長生きしている。何故か?こんなことを言う人がいる。原爆の爆心地近くにいた人でも生きている人がいる。だから原爆は怖くない、とは誰も言えない。疾病別に感受性の違いはあってもタバコの煙の中の毒性物質のすべてに感受性がなく、どの病気にもかかりにくいという人はあり得ない。仮に長生きしてもぼける。
タバコはがんの素ではなく、老い薬である。タバコはがん作りの素である以上に老い薬である。タバコ自動販売機は、がん作りの素、老い薬の自動販売機である。 子どもの話にはいる。
■中学から吸い始めると長生きできない
中学のときから、15歳までにタバコを吸い始めた人の年齢累積死亡率をみると、タバコを吸わない人に比べ、15年早く老いる、つまり、がん年齢が15年早く来ることになる。中学のときから吸い始めると、いかに人生を駄目にするか、駄目男、駄目女にするかはっきりしている。体を張ってでも中学生にはタバコを吸わせない、もちろん高校生でも吸わせるべきではないが、特に中学生にはタバコを吸わせないことが大切である。
実際に中学から吸い始めると、総死亡率も高い、がん死亡率も高くなる。特に虚血性心臓病は最も高くなる。どの年齢で吸い始めても、吸わない人に比べると死亡率は高いが、特に著しく高いのは中学から吸い始めた人で、次がハイティーンで吸い始めた人である。 中学から吸い始めると、59歳までに死亡する確率(年齢累積死亡率)は、総死亡が2倍、がん死亡が4倍、虚血性心臓病死が実に11倍である。早く死ぬのは当たり前である。
さらに怖いのは、中学から吸い始めると強いニコチン依存症になることである。高度喫煙者(一日に25本以上喫煙者)の割合が20歳から吸い始めた場合より倍も高い。
タバコドミノ、肺がんは最後のドミノが起こすのではなく、最初のドミノが起こす。だから中学のときからタバコを吸い始めることが肺がんの運命づけをする。ドミノ理論はこの場合非常に大事である。何のために禁煙教育が必要か、このドミノがあるからである。 たばこ産業KKが発表したデータから計算すると、未成年者の喫煙(喫煙本数から計算)がぐんぐん増えている。このままで良いのか。殆どが中学から吸い始めると、早く歳をとるのだから将来大変なことになる。まさに国難である。国難意識を持たなければならない。














